スイス学会参加記(2001年5月18日) 岩井隆夫

 2001年5月18日(金)にスイスのベルン大学にて、スイス社会経済史学会(Schweizerische Gesellschaft fur Wirtschafts- und Sozialgeschichte)の年次大会が開催され、参加して傍聴してきましたので簡単に印象などをお伝えします。
今年のテーマは「慈悲から保険へ(Von der Barmherzigkeit zur Versicherung)」であり、ディンゲス氏(M. Dinges、 シュトットガルト)の「中世後期・近世の貧困についての研究における新動向?」およびプロカッチ女史(G. Procacci、リヨン)の「社会国家の起源に寄せて」と題する基調報告に続いて、第1部会「中世後期から近世にかけての貧民救済の変遷」と第2部会「スイスにおける社会国家(1880年から1970年まで)」の2部会に分かれ、計6つのワークショップに分かれて、各ワークショップ6名の報告者の報告が行われました。私は第1部会のワークショップ1(下記参照)に参加しました。なお、これらの報告は来年の7月に公刊(出版社はChronos)されます。

 
 ・K. P. Jankrift, Hospitalgrundungen in spatmittelalten Kleinstadten. Das Beispiel Geldern. (中世後期小都市における救貧院建設。ゲルデルンの事例)
・M. Hammond, From Pilgrims to Patients: Care for the Sick in sixteenth-century Augsburg (巡礼者から患者へ−16世紀アウクスブルクの病人に対する救済−)
・S. Jaggi, Luzerner Armenfursorge in der fruhen Neuzeit.(近世ルツェルンの貧民救済)
・G. Francini, Die Fursorge im fruhneuzeitlichen Zurich. Betrachtungen uber die Rolle der sozialen Institutionen. (近世チューリヒにおける救済。社会制度の役割についての考察)
・O. Hochstrasser, Fursorge und Ordnungspolitik: Der Armutsdiskurs des 17. Jahrhunderts am Beispiel Freiburgs i. Br. (救済と秩序政策。フライブルク・イム・ブライスガウの事例に見る17世紀の貧困討議)
・E. Fluckiger, <Des Standes sanfter Wohlthats-Strom>. Staatliche Armenfursorge auf der Berner Landschaft im 18. Jahrhundert.
(<穏健なる慈善傾向>。18世紀ベルンの農村部での国家による貧民救済)

 全体的に、少人数のワークショップに分かれての報告では打ち解けた雰囲気ながらかなり立ち入った質疑応答がなされ、フランスやイタリアの研究環境に育った研究者の報告は大きな見通しを提示している反面、個別の事例の裏付けに乏しく、ドイツことにスイスの研究者の報告は個別の事例を詳細に取り上げている反面、全体の見通しに乏しいという印象を受けました。