昨年に引き続き、今年も5月24日(金)にベルン大学(UNITOBLER)で開催された「スイス社会経済史学会(Schweizerische Gesellschaft fur Wirtschafts- und Sozialgeschichte / Soci ete suisse d'histoire economique es sociale)」の年次大会に参加してきましたので、印象などを簡単に御報告します。
今年のテーマは「拡大−統合−侵略(Expansion-Integration-Invasion)、中世後期以降の社会経済的変化の中心視角としてのグローバリゼーション(Globarisierung als zentraler Aspekt wirtschaftlichen und sozialen Wandels seit dem Spatmittelalter)」でした。昨年に比べて参加者が少なかったことと、フランス語圏スイスからの報告者や参加者が多かったことが印象に残りました。
ジュネーヴ大学のP・Verley教授による基調報告に続いて、次に挙げる3つのワークショップ(セッション)に分かれて、報告と質疑応答がなされました。
ワークショップ1(オーガナイザー: Beatrice Veyrassat)
グローバリゼーションの推進と危機における経済と政治の関係(Beziehungen zwischen Wirtschaft
und Politik in Globalisierungsschuben und -krisen))
ワークショップ2(オーガナイザー:Margrit Muller, Yves
Froidevaux)
企業の戦略と投資家(Strategien der Unternehmen und Investoren) )
ワークショップ3(オーガナイザー:Hans-Jorg Gilomen)
教育過程と討論としてのグローバリゼーション(Globalisierung als Lernprozess und Diskurs)
このうち、私は午前中はワークショップ1に、午後はワークショップ3に参加しましたが、ワークショップ内での討議は午前から午後へと一貫しているので、午後から参加したワークショップでの討論には十分な理解を得ることができなかったことを反省しております。
私が傍聴した報告は下記の通りです。
ワークショップ1
@Stefan Altdorfer: Berns Kapitalverkehr im 18. Jh.: Integration
in ein "globales" System.(18世紀ベルンの資本取引の「グローバル」システムへの統合)
ANick Linder: Aufstieg und Fall des Hauses Malacrida: Krise und Krisenbewaltigung als Folgen des Zusammenbruchs der ersten Berner Bank.(マラクリーダ商会の盛衰−最初のベルン銀行破産の結果としての恐慌と恐慌克服−)
BThomas David: Le miracle suisse (1870-1914). Croissance economique et mondialisation.(スイスの奇跡(1870年から1914年)−経済発展とグローバリゼーション−)
ワークショップ3
CTobias Straumann: Oekonomie und Diskurs. Globalisierung in der
Schweiz wahrend den 1990er Jahren.(経済と討論−1990年代におけるスイスのグローバリゼーション−)
DTamara Munger: Die Globalisierung im Spiegel der Berichterstattung von Schweizer Medien zu Gipfeltreffen der WTO und der G8.(WTOとG8の頂上会談に関するスイス・ジャーナリズムの報告に見るグローバリゼーション)
@とAの報告はいずれも、都市貴族による寡頭制支配が最も強く見られた都市邦ベルンを対象として、グローバリゼーションという現代的な視角から都市の財政や銀行の経営のあり方をとらえたものであり、史料という同一の素材を対象としても新たな視角に基づいて新たな研究成果が生まれること、また政治的性格が強いベルン邦についてもグローバリゼーションという視角から問題を提示できることを学んだ次第です。
Bの報告は産業革命後のスイスの経済発展を国際経済ネットワークの中に位置づけたものであり、国内市場統一を踏まえてスイスが19世紀後半から20世紀初頭にかけての時期に、国際貿易関係において優位を占めていたことを知ることができました。
CとDの報告は、1990年代以降のスイスの経済界やジャーナリズムにおいてグローバリゼーションがどのように扱われてきたのかを取り上げたものであり、グローバリゼーションという用語が世界市場での企業の経営のあり方という意味内容から地球規模の社会・経済の変容という意味内容に変化したのは、それほど前のことではなくようやく1990年代の後半以降であることを知ることができました。