第3回  研究報告会 報告要旨

「スイスにおける歴史研究(Geschichtsforschung in der Schweiz)」所収の、女性史・性別史のサーヴェイ論文(Regina Wecker)について」

報告者 佐藤るみ子


▽日時:1993年9月11日(土)15時〜17時45分
▽場所:日本女子大学 泉山館二階第二会議室


Regina Wecker, Frauengeschichte Geschlechtergeschichte

 スイスにおける女性史研究の実態について、その経緯と問題点、さらに今後の課題をも含めて紹介、問題提起した論文である。

 先ず女性学・女性史の先進国である英語圏で、1940/50年代展開された女性解放運動から始まった経緯を紹介。その上で、従来の学問が女性を無視してきた点を指摘、女性の役割の再検討を提唱する。

 スイスへの女性学・女性史の導入は、近隣諸国に較べ遅い。部分的に大学で研究が開始されるようになったのは、1970年代初めである。しかしこの導入の時間的差異による研究レヴェルのギャップは、既に存在しない点を強調し、その後の国内での活動を紹介。

 女性学の導入により、過去における女性達の実態を探る歴史の講義・ゼミが開講された。学際的研究グループ並びに学生間で、単発の共同研究や自由講義、さらにゼミ活動が各大学で行われるようになる。ベルン大学では19世紀の女性をテーマに、Beatrix Mesmer教授のもと、「近代化の時代における女性の職業」に関するゼミが開講された。 バーゼル大学でもアメリカの歴史研究における女性についての講義が、またチューリヒ大学では、19世紀の女性をテーマに女性史講座が開設された。これらの動きを受け、学生間にも女性史への興味が高まり、ゼミのテーマ、卒業論文に女性史関係が増大傾向を示すようになる。さらに女性史研究会も発足し、研究者を中心に、バーゼル、ベルン、チューリヒで1〜2年毎定期的に女性史家会議を開催、発表内容を公刊している。こうした動きが見られるのは、70年代末以降のことである。

 ほぼ同時期、フランス語圏でも同様の活動が開始されている。しかし具体的なドイツ語圏との交流に関しては、あまり言及されていない。

 問題点として次の点を挙げている。このスイスでの研究活動が、スイスが抱えていた婦人参政権問題との関連で、対外的評価が低いこと。内外研究者間の交流が不十分であること。国内大学では、女性史に対しまだ冷淡で、授業として講座内に受容されていない現状。現在の研究テーマが多岐にわたり、研究焦点、方法論が曖昧で、確立されていないこと。その結果、組織的かつ長期的研究までには至らず、スイス国内外の情報収集が不足している点を指摘。こうした問題の重要な背景の一つとして、研究費不足を強調。

 今後の課題として、女性史研究の中心となるべき研究所設置の必要性。またスイス史の分野に「性の概念」を導入することを提唱している。

 ここで論じられた女性史・性別史は、スイスにおける一般論と言え、具体的な史料分析上の問題点など、踏み込んだ論議はあまりなされていない。時代的に中・近世に関する一般書の不足、文献・史料保存が無いこと。女性史家会議で発表されるテーマでも、17・8世紀に関して殆ど無い点を指摘するにとどまっている。むしろWecker女史は、女性史論そのものより、この分野を発展させてゆくための環境整備論に重きを置いているようである。これがスイスの現状とも言えよう。しかしながら註には、スイス女性史に関する文献が多々紹介されており、あまり知られていないだけに、重要な情報源となるであろう。