第17回  研究報告会 報告要旨

紹介:ランドルフ・C・ヘッド
『近世グラウビュンデンにおける民主政治−スイスの一山岳邦の社会秩序と政治言語 1470-1620年−』(ケンブリッジUP, 1995年)

R.C. Head, Early Modern Democracy in the Grisons: Social Order and Political Language in a Swiss Mountain Canton 1470-1620, Cambridge U.P. 1995.

踊共二


▽日時:1997年1月25日(土)15時30分〜18時30分
▽場所:日本女子大学 文学部史学科共同演習室


 14世紀からアルプス山岳地帯に相次いで出現した3つの同盟組織からなるグラウビュンデン自由国は、共同体原理(コミューナリズム)を村落内部の問題ばかりでなく「国家的」次元においても貫徹させ、近世を通じてそれを維持し、集権化も門閥寡頭制も許さなかった希有な事例である。それは平民の主権的自治共同体を構成単位とする同盟国家の純粋型であった。自治共同体の平民たちはしばしば、突発的な「旗揚げ Faehnlilupf」と「裁判集会 Strafgericht」によって同盟指導者やゲマインデ指導者に「民意」を受け入れさせた。「旗揚げ」のたびに起草された改革文書は、しばしば「同盟会議」の追認をへて正規の法令となった。ヘッドが力を入れて論じている17世紀初頭の混乱期には、「多数決原理」と「民主制」を唱道する政治的プロパガンダが巻き起こった。この「政治言語」は、ヘッドによれば、ヨーロッパのいたるところで支配的になりつつあった絶対主義的国家論への、最も強烈なアンチテーゼであった。急進的ポピュリストの宣伝文書にいわく。「われわれの政治形態は demokratisch である。あらゆる種類の政府当局者、裁判官、官吏の選出と罷免の権限は、われわれの自由な支配地においても、われわれに臣従する諸地域においても、われわれ平民にある。平民は、多数意見に従って法令の制定と廃止を行い、外国の君主や諸身分と同盟を締結し、戦争と平和の問題を処理し、またその他すべての、上級・下級の当局者の管轄事項を審議する権限をもっている」と。