第19 回  研究報告会 報告要旨


『スイスにおける直接民主制』

報告者  関根 照彦


▽日時:1997年10月4日(土)14時10分〜17時40分
▽場所:日本女子大学 文学部史学科共同演習室


 1 スイスの近代民主制(半直接民主制)の形成に寄与した重要な要素としては、一般に、アンシャン・レジームの時代のランズゲマインデにおける住民集会型民主主義、グラウビュンデンおよびヴァリスにおけるレファレンダム制度、ヘルベティア共和国時代スイスにもたらされたフランス革命の思想、1830〜40年代のカントンにおける新生化運動などが上げられている。

   いわゆる青空住民集会としてのランズゲマインデ型民主主義は、民主主義のもっとも純粋な形態であり、その存在はスイスの民主主義の発展過程で多くの影響を及ぼし、今なおスイスの  いくつかのカントンでこれを看ることができる。他方、グラウビュンデンやヴァリスで発展したレファレンダム制度は、現代スイスの半直接民主制度の中心であるレファレンダム制度の形成に際して、一つのモデルを提供した。しかし、このスイス伝来の連合(国家)的性格をもつレファレンダム制度が近代的制度となるためには、フランス革命の個人主義的・啓蒙思想の洗礼を受ける必要があった。そして、イニシアティヴやレファレンダムの制度は、新生化運動を経てスイス全土へと広がっていった。

 2 現在、スイスにおいては、ブントおよびカントンのレヴェルにおいて、実に多種多様な国民(市民・住民)投票制度が存在している。

   たとえば、連邦レヴェルにおいては、憲法・条約・緊急決議などを対象とする義務的国民投票、法律・条約・緊急決議を対象とする任意的国民投票、憲法改正に関する国民のイニシアティヴに基づく国民投票などが行われ、カントンにおいても、憲法・法律・コンコルダート・財政支出・議会による計画・大規模事業に対する許認可・原子力施設に関するカントンの見解、広範な事項に関するカントン民のイニシアティヴに基づく投票、等々が行われている。投票は、一定数の国民(カントン)の要求に基づいて行われる場合もあれば、議会の決定に基づいて  行われる場合もある。一般には、投票の結果は法的拘束力を持つとされているが、カントンにおいては法的拘束力を持たない諮問的住民投票も行われている。

 3 1995年および1996年に公にされた連邦憲法の全面改正草案においては、直接民主制に関するいくつかの重要な提言が行われたが、これらの提言は、現在ある直接民主制度の本質  的部分を維持しながら時代に適合するよう制度を改革し、国家の決定能力・活動能力を向上させることを目的としていた。

   提言の中には、国民によるイニシアティヴの対象を法律事項にまで拡大する「一般イニシアティヴ(Allgemeine Volksinitiative)」制度の導入や、重要な現代の行政行為に対処するための「任意的行・財政レファレンダム」制度の導入、ヨーロッパ統合の流れを念頭においた「条約執行のための国内法に対する国民投票の制限」、「連邦裁判所によるイニシアティヴの無効宣言」、等などが含まれていた。