第20 回 研究報告会 報告要旨
▽日時:1997年12月6日(土)14時15分〜17時15分
▽場所:日本女子大学 文学部史学科共同演習室
本報告は、住民総会をはじめ、住民投票、住民発議といった直接民主制を基本としているスイスにおいて、(議会型)オンブズマン制度がどのように成立し、発展しているのかを明らかにしたい、ということを出発点にしている。
スイスにおいて最初にオンブズマン制度を発足させたのは、チューリヒ市であった。チューリヒ市は、ヨーロッパで最初の自治体レベルのオンブズマン制度を設置した都市であり、世界的に見てもイスラエルのイェルサレム市に続いて2番目である。
スイスでオンブズマン制度が成立した理由として指摘されているのが、デンマークの国政オンブズマン、S.フーヴィッツによる講演(1960年)とそれに影響を受けたスイスの学者の活躍である。さらに、同制度がとりわけチューリヒ市で最初に成立した理由としては、1970年の新しいゲマインデ条例(Gemeindeordnung)の制定であるといわれている。
本報告では、このような成立過程を概観した上で、同制度がチューリヒ市政においてどのような役割を演じているのか等について、これまでの活動実績や事例から紹介した。
チューリヒ市におけるオンブズマン制度の成功に触発されて、1978年にはカントン・チューリヒにおいても同制度が発足、さらに今日では、ヴィンタートゥール市やベルン市、カントン・バーゼル・シュタット、カントン・バーゼル・ラントシャフトで制度化されている。ただし、連邦レヴェルのオンブズマンは、これまでに幾度となく議論されてきたものの、未だに制度化されていない。
報告者は、スイスのオンブズマン制度が人口の多い都市ゲマインデやカントンにおいて導入されていることを指摘して、その原因として、(1)住民総会を有するゲマインデよりも住民の声が市政に反映されにくいこと、(2)行政統制の明確化と住民の権利を保障する手段の確保、の2つを挙げた。
報告後の質疑応答においては、チューリヒ市では議員、市長、市幹部(執行部)を、住民が直接選挙で選出しているにもかかわらず、オンブズマンだけが議会によって選出されるのはなぜか、とのご質問をいただいた。また、その意味で、オンブズマン制度は「非スイス的」ではないのか、というご指摘もいただいた。
報告者は、今日のオンブズマン制度がそもそも議会によってオンブズマンを選出するというシステムであり、チューリヒ市でもそのスタイルを踏襲したものと考えられる、と回答したが、関根先生からは、オンブズマンを直接住民に選挙させないことは、「良識ある人物が必ずしも選出されるとは限らない」との危惧があるからであり、オンブズマンの選出に議会をかかわらせることで行政統制に議会が影響力を及ぼせるからではないか、と補足していただいた。
もちろん、オンブズマンの選出方法については、議会だけが関与するのではなく、例えば、オンブズマンの候補者を議会で数人に絞り込んだ上で、住民投票によって最終的な決定をする、という方法もありうる、と考えられる。
なお、最後に「国政監察官」という訳についてご質問をいただいたが、原語はParlamentsbeauftragteで、訳語は南山大学・小林武教授の『現代スイス憲法』に依拠している、ということを付け加えておきたい。